<歌詞和訳&歌詞解釈>Running to Stand Still / U2

runningtostandstill和訳と解釈

歌詞の和訳

彼女は目を覚ますと
起きあがって言ったんだ
僕たちがこれから行く先で
何をしなきゃいけないのかを

列車に乗って
叩きつけてくるこの雨から抜け出すんだ
もしかしたらこの夜の暗さからも逃げ出せるもしれない
アラララディデイ
アラララディデイ
って歌いながらさ

甘い味がする罪、だけど本当は苦い
七つの塔が見えるけど、出口があるのはたったひとつだけ
涙を流さず泣かなくちゃいけない
話さないで喋らなくちゃいけない
声を上げずに叫ばなくちゃいけないよ

知ってるだろ、僕は毒の流れに身を任せたんだ
それで僕の身体はここから浮かんでいくんだよ
アラララディデイ
アラララディデイ
って歌いながらさ

黒くて分厚い雲の下
彼女は通りを走り抜けていく、目を真っ赤にして
玄関のドアを閉めると
海から盗まれたホワイトゴールドと真珠をくれ

彼女は荒れ狂う
激しく波打つ
瞳の中で嵐が吹き荒れているのが見える
彼女はこの先も冷たい注射針に苦しむことになる
彼女は立ち止まるために走っている

歌詞の解釈

 この曲は貧困と薬物依存に苦しむ男女について歌ったものです。前提知識なしでいろいろ想像してみたかったんですが、すでに私の中にこの曲について少し情報があるのと、歌詞の最後に出てくる”needle chill”という単語が他の解釈を阻んでいるので、この前提で歌詞の意味を考えていきます。名曲です。

 なお蛇足ですが、クスリの種類をヘロインとしているのは、摂取方法が注射によるものだからです。

And so she woke up
Woke up from where she was lyin’ still.
Said I gotta do something
About where we’re goin’

 出だしのギターの音もなんですが、少しけだるい目覚めの雰囲気で始まります。ただ、目覚めたからといってもおそらく朝ではないです。この後、列車に乗って夜の街を抜け出すことを考えれば、おそらく場面は日暮れ頃かと思います。

Step on a steam train
Step out of the driving rain, maybe
Run from the darkness in the night.
Singing ah, ah la la la de day
Ah la la la de day

 ふたりは列車に乗って雨が降る夜の街を後にします。

 激しく降りつける雨は生きることの過酷さ、夜の暗さは未来の見通しの悪さを表しています。また、速いスピードであっという間に別の場所へ移動できる列車は、ヘロインなど即効性のある薬物の使用を暗示しています。

 行き先はわかりませんが、事前に打ち合わせをしていることや薬物依存に陥っていることを考えると、新たなクスリを調達しに行っているのかもしれません。

 おそらく道中、なんらかのクスリをやってるんだと思います。

 それで陽気に歌いだすのです。アラララデディ、アラララデディと。

Sweet the sin, bitter than taste in my mouth.
I see seven towers, but I only see one way out.
You gotta cry without weeping, talk without speaking
Scream without raising your voice

 身が蕩けるような甘美な快楽を与えてくれるヘロインですが、現実に残すものは苦い絶望です。

 七つの塔は「貧困」と「クスリ」に囚われた人間が住む場所を象徴しています。
 貧困という状態は自力では抜け出せないと言われています。いわゆる無理ゲーというやつで、そこでは当人の意思も意欲も努力もまるで意味がありません。這い上がろうにもかける足場がないからです。私は、地面に掘られたすり鉢状の窪み、それも側面が急角度でつるつるに磨かれたものを連想します。窪みの外からロープを投げ入れてもらわなければ抜け出すことができないのです。

 そしてそこにクスリが入り込んだとき、行き詰まった現実から抜け出せる見込みはゼロどころか(より死が近くなるという意味で)マイナスになります。

 たったひとつの出口とは、そんな絶望的な状況を嘆いているのです。

 *U2の出身地であるアイルランドのダブリンに実際にセブン・タワーという大規模な集合住宅があったそうで、この部分の詞はその場所をイメージして書かれているようです。貧困と薬物に苦しむ人たちを象徴するような場所だったそうです。

You know I took the poison, from the poison stream
Then I floated out of here, singing
Ah la la la de day
Ah la la la de day.

 人が絶望するのは未来が見えないときです。貧困は人間の行動と思考に刹那を強制し、未来を分厚い壁で閉じてしまいます。拠り所もなく今日明日の食べ物を心配して生きる人間は数ヶ月、数年先の未来を思い浮かべることはできません。

 クスリはそこに入り込むのです。彼らにとってそれが唯一の救い(逃避)になるからです。このようにして彼らが日々心配するのは食べ物でなくクスリにすり変わっていくわけですが、ろくに食べずにクスリに依存すれば、健康を害し、死期を早めることになるのは言うまでもありません。

 詞中のポイズンストリーム(毒の流れ)は単にクスリのことを言っているわけではなく、貧困からクスリにつながっていくこの救いがたい状況や、本人を取り巻く周囲の環境そのものを示しています

 男はヘロインがもたらす一時の幸福感に逃げ込んで、アラララディデイと歌います。ですが、その陽気に歌う姿はどん詰まりの環境に飲み込まれてしまった人間の悲哀と絶望を強調しているのです。

She run through the streets
With her eyes painted red
Under black belly of cloud in the rain.
In through a doorway
She brings me white golden pearls
Stolen from the sea.

 分厚く黒い雲の下、彼女はヘロインを隠し持って通りを駆け抜けていきます。

(ここからの歌詞ほんといいです。曲を聴くたびに情景が頭に浮かびます。篠突く雨だったり小糠雨だったり、雨が降り出す直前のヒリヒリした大気だったり、雨の量や激しさはその時々違うんですけど・・・。”under black belly of cloud in the rain”の一節が色々と想像させてくれるんだと思います)

 目が赤いのは、ヘロインのせいで充分な睡眠をとれていないのと離脱症状が始まっているからです。彼女は一刻も早くヘロインを摂取する必要あります。

 玄関に入ると、彼女はホワイトゴールドと真珠を手渡すのですが、これには二つの意味が併存しています。

 ひとつは単純にヘロインやクスリの比喩。そしてもうひとつは彼女が人生で得るかもしれなかった輝きや、彼女の核である純粋さや健康です。海から盗まれたと表現しているのはヘロインのほうではなく後者のほうかと思います。

 ヘロインが彼女の人生から未来を奪い去り、同時に彼女の過去も奪い去ったのです。

She is ragin’
She is ragin’
And the storm blows up in her eyes.
She will suffer the needle chill
She’s running to stand still.

 ヘロインが切れて彼女は激しい離脱症状に苦しみます。体の中で嵐が吹き荒れて、そのあまりの激しさにまるで彼女の瞳にその映像が映し出されるようです。それでも注射針を静脈に突き刺すことで、彼女は平穏を取り戻すことができます。

 何度も繰り返されるこの針先がこの先もずっと彼女を苦しめていくことになるのです。

 彼女の生きる目的はヘロインを手に入れてそれを腕に注射することだけです。「立ち止まるために走ってる」とは、そんな行き詰まった状態を表現しているのです。

150帖のボノ

 静かですが、とても力強い曲です。個人的には、名盤「ヨシュアツリー」の中での一位です。
 もう四半世紀ほどまえになりますが、この曲を初めて聴いたときに感じたことを今でも覚えています。

 「なにこれ」

 一聴しただけでは私はこの曲の良さがまったくわかりませんでした。でも、キラキラした他の曲を目当てに繰り返しアルバムを聴くうちに、この曲が持つ力強さに惹かれていきました。気がつけばこの曲だけリピートするようになっていました。

 静かな出だしから少しずつ力強さを増していき、女性が通りを駆け抜けていくシーンからクライマックスに至る展開は、もう何度聴いたかわかりませんが、本当に素晴らしいです

 2019年の冬に大枚をはたいて「ヨシュアツリーツアー」日本公演を観に行ってきました。このツアーでは巨大なLEDスクリーンをステージ上に設置して、演奏するU2をはじめとして曲にあわせた様々な美しい映像を映し出す演出がされていたのですが、この曲の演出は非常にシンプルでした。映し出されたのは青白くてほの暗い照明に浮かぶボノの顔だけです。歌っているボノの顔は畳でいうとおよそ150帖くらい。でかかったです。私の席が稀にみる悪席でステージからだいぶ離れていたのでありがたかったですが・・・。

 でも素晴らしかったです。この曲を生で聴けるときがくると思っていなかったからやはり嬉しかった。涙こそでませんが、頭の先っぽがピリピリ震えるような不思議な感覚でした。

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